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父の入院4 (さらに続き)

前回からの続き

 

火事場の馬鹿力とはよく言ったものです。

庭に父の車があったためにベッドを積んだ自分の軽を庭に入れられないと思った由美ちゃんは、ベッドの重くて大きな段ボール箱を一人で担いでやってきたのです。

私は度肝を抜いて立ち尽くしてしまいましたが、すぐに我に返って由美ちゃんを助けてベッドの段ボール箱を持ち上げました。

『重い・・・。こんな物をよくも一人で軽から降ろしたものだ』。

私は驚くやら、何だかおかしいやら、これまでで一番の好感を義妹である由美ちゃんに感じました。

二人でベッドを段ボール箱から引っ張り出して内容を確認します。大体の形は完成形に近いのですが、キャスターやリクライニングを取り付けなければなりません。私はこういう作業は苦手です。組み立て方法の図面を見てもよく分からないのです。それは由美ちゃんも同じようです。

締め切りになっていた実家は蒸し風呂のようです。私は取り合えず窓を全開にして扇風機を回しました。

そこへ弟がやって来ました。

「あー、助かった!」

弟は結構テキパキと組み立て始めました。

由美ちゃんが助手をしてくれています。

私は包装のビニール袋や段ボールを片付けます。2階の父の寝室からシーツやタオルケット、枕など持って来ます。Ⅰ時間かからないで組み立ては終了しました。それでもすでに9時半を回っていました。これから父を迎えに病院へ行かねばなりません。私と由美ちゃんが病院へ行くことになりました。

病院は車で15分ぐらいです。

到着すると駐車場と正面玄関はすでに閉鎖されていました。建物が全体的に暗くて、寝静まっている様にも感じられます。

私は思わず由美ちゃんに、

「暗いね、こんな状態で退院できるのかしら」と言ってみました。

彼女は自分の軽自動車を病院の正面玄関の近くに停車させて、

「お父さんに電話をかけてみます」と言ってスマホを操作しました。

父はすぐに出たようです。

「あ、お父さん、今、病院に着いたんですけど・・・」と言っていると思ったら、彼女は急にスマホを私に差し出してきました。

「お姉さん、お父さん何言ってるか分からないです」私は彼女のスマホを受け取って、

「お父さん?今病院に着いたんだけどね。駐車場も閉められてるしどうすればいいかな。取り合えずベッドも買ってきたし、もう組み立てたし、退院しても大丈夫ですよ。退院の手続きはどうなってるの?」と聞きました。すると父は、

「退院はしない」と言うのです。

さっきまではコロナ患者が出たと言って怯えきって「すぐ退院する!」の一点張りだったのに、どういう事なのか、何しろビックリです。声も出ません。由美ちゃんと顔を見合わせました。由美ちゃんは、

「どうしたんでしょう」心配顔で私を見ます。しかたがなく私は、

「お父さん、退院するんじゃないの?もう準備は出来てますよ」と同じことを言いました。すると父は、

「退院の希望患者が急にたくさん出たから清算が出来ないらしいんだ。計算が間に合わないらしい。今日の退院は無理だ」とさらりと言うのでした。

それだったら何故にもっと早く言わないのだ。メールだって電話だって、何とでも連絡出来たであろうに。

私は由美ちゃんに申し訳なくて仕方がない。この暑い中を振り回してしまったではないですか。

「由美ちゃん、ごめんね。どうも退院患者が急にたくさんでたので清算が間に合わないらしくて、退院は無理みたい」私は溜め息混じりに言いました。彼女は、

「いいですよ、お姉さん。どうせベッドは用意しなければならないし。早く準備しておいたほうが安心ですから」

そう言ってくれました。

「お父さん、では退院はいつになるの?」私が聞くと父は、

「明日の10時ごろ来てくれ。ズボンがないからズボンを持って来てくれ」と言います。

「ズボン?救急車で行った時の服でいいでしょ?」

「いや、ズボンだ。ズボンが無い。夏用のグレーのズボンがあるからそれを持って来てくれ。ズボンだ」

「・・・」

父は何故かズボンのことばかり気にしています。病院から自宅までどこにも寄らないのだからパジャマだって問題ないくらいなのに、何故にズボンにこだわるのか、分かりません。由美ちゃんに、

「ズボンだ、ズボンだと言ってるけど何かな」と私が言うと、

「さあ」と曖昧に笑っています。そして、

「老人のこだわりじゃないですか?」と付け足しました。

 

次回へ続く